プロジェクトストーリー

スマートフォンで撮影したレシートの画像をOCR解析し、レシートに印刷された文字・数字を抽出・整形する「レシート解析エンジン」。店舗ごとに表記方法が異なるレシートの日付や商品の名称・金額・割引金額・合計金額等を解析し、データベース化する画期的なこの技術は、いまやISPを代表するヒット製品へ成長した。このレシート解析エンジンの開発をリードし、その技術をベースに数々の製品を世に送り出すプロデューサーがいる。ISP営業本部 商品戦略グループの山田典子である。2013年初夏、山田はレシート解析エンジンを活用した、新しいビジネスの創出に向けて動き出した。それはレシートという1枚の紙から無限の可能性を引き出す、新たな挑戦の始まりでもあった。

『レシート解析エンジン』、それはひとりの主婦の発想から生まれた。

「私は大学卒業後、ゲーム開発やアミューズメント施設を運営する企業に就職し、そこでの経験をアプリ開発に活かしたいと考え、2008年にISPに入社しました。入社当時、すでに結婚しており、子供も幼かったので、会社と家庭の両立は大変でしたが、女性・主婦・母だからこそ、男性とは異なる視点・発想で製品を開発できるはず、という思いで仕事に取り組んでいました」と山田は語る。そんな山田のアイディアを原点として生まれたISPのヒット製品、それが『レシート解析エンジン』である。

「これまで家計簿をつけるためには、大量のレシートを一枚ずつ目視でチェックする必要がありました。しかし、レシートに記載された商品名や金額は店舗ごとに表記方法が異なっており、チェックするだけでも面倒です。もし、この作業を一瞬で完了してくれるアプリがあれば…レシート解析エンジンは、そんな主婦の発想が開発の原点でした。ISPの技術者と協議・テストを重ね、完成したアプリが初めて携帯電話に搭載されたときのうれしさは、いまでも忘れられません」と山田は微笑む。

“ISPと新しいビジネスを模索したい”それがプロジェクトの始まりだった。

山田の発想をカタチにしたレシート解析エンジンは、お小遣い帳から本格的な家計簿まで、多種多様なアプリに内包され、暮らしを強力にサポートする便利なアイテムとして定番化している。その山田のもとに、大手インターネットブロバイダ企業、ニフティ株式会社(以下「ニフティ」)から問い合わせが入ったのは、2013年6月のこと。ニフティは全国10,000店舗以上のスーパーマーケットのチラシ情報を、パソコンやマホで無料閲覧できる主婦向けサイト『シュフモ』を運営している。約187万人(2015年1月末現在)の登録会員を擁するシュフモは、そのスケールと情報発信力を活かし、食品・飲料メーカーなど、さまざまな企業とタイアップした販促キャンペーンを展開していた。そのシュフモでレシート解析エンジンを使った新しい販促キャンペーンを展開し、サービスの魅力を高めたい。それがニフティの要望だった。

「販促キャンペーンとは、たとえば“○/○~○/○の期間中にA社のビールを○本お買い上げいただいたお客様の中から、抽選で○○○名様に○○○をプレゼント”といった特定商品の販売促進策のこと。その応募方法は、A社のビールを○本買った証明となるレシートや缶に付いているシールなどをハガキに貼ってA社に郵送するのが一般的です。しかし、消費者にとって、この応募方法は手間も経費もかかります。また、応募を受け付けるA社も応募ハガキのチェック作業などが大きな負担になります。私たちはニフティ様と協議を重ね、“キャンペーンの対象商品を買った証明となるレシート(応募対象商品以外の商品が混ざっていてもよい)をスマホで撮影するだけで、レシート解析エンジンが購買記録を読み取り、自動的に応募受付処理を行い、消費者に応募完了の通知が折り返し届く”という仕組みを提案しました。しかし、その提案を実施するためには、乗り越えなければならない課題がありました」と山田は振り返る。

ひとつめの課題は文字・数字の“読み取り精度”だった。レシート解析エンジンのベースである『OCR(光学文字認識)』の読み取り精度は100%ではない。また、レシートに記載された文字・数字は、店舗ごとに行間、書体、大きさ、印刷の濃淡などが異なる。さらに消費者が撮影した写真のクオリティ(明るさ・ピント・構図)も千差万別。そのためレシートや写真の状態によっては、たとえば『アイエスピー』という文字を間違って『マイエスピー』と読み取ってしまう可能性もあった。

奮闘する技術陣。精度向上の起死回生『特定商品読み取りシステム』の誕生。

「ISPでは発売以来、レシート解析エンジンの読み取り精度を向上させてきました。しかし、その精度は約96%(ISP評価・画像環境が良好な場合)。まだまだ信頼できる数値とは言えません。もし、キャンペーン対象の『アイエスピー』という商品を、『マイエスピー』と読み違えた場合、キャンペーン対象商品を買っていないことになってしまいます。私たちの提案を実現するためには、読み取り精度のさらなる向上が不可欠でした」と山田は語る。ISP技術陣は読み取り精度を向上させるべく、これまでの知見に基づき、レシート解析エンジンが正しい読み方を類推し、正しい文字に補正する『特定商品読み取りシステム』”を開発した。

「たとえば、レシート解析エンジンに“キャンペーン対象商品は『アイエスピー』であり、アイエスピーの『ア』は『マ』という文字に間違える確率が高い”という情報をインプットしておきます。もし『マイエスピー』と間違って読み取った場合でも、正しい読み方をエンジンが類推し、『アイエスピー』に補正するのです。この技術により、読み取りにくかった文字も高い確率で正確に読み取ることができるようになりました」。『特定商品読み取りシステム』はニフティから高く評価された。しかし、それと並行してプロジェクトは、よりスケールの大きなものへ変わろうとしていた。

新サービス『ニフティレシート解析システム』の共同開発へ発展。

「2013年11月、プロジェクトは大きく動きました。両社で議論を重ねた結果、“この仕組みをシュフモだけでなく、あらゆる企業が利用できる新サービス『ニフティレシート解析システム』として、改めて共同開発しよう”という、よりスケールの大きなプロジェクトへ発展したのです。ISPの『特定商品読み取りシステム』を内包したレシート解析エンジンとニフティクラウドを組み合わせ、どんな企業でも料金を払えば利用できるレシート解析システムを作る。それがプロジェクトの新たなテーマになりました」。
より大きな目標に向かって走り始めた山田。しかし、ここで山田は、もうひとつの課題に直面する。

「ニフティレシート解析システムを企業に利用してもらうためには、あらゆる規模のキャンペーンに対応できることが重要です。しかし、そこには“膨大な商品点数とデータ処理にかかる時間”という、解決すべき大きな課題がありました。たとえば、飲料・食品メーカーが全商品を対象に販促キャンペーンを実施した場合、その商品点数は千点を超えることもあります。そこで問題になったのが『特定商品読み取りシステム』のデータ処理時間でした。千点を超える商品名を読み取り、解析・補正を行うためには、数万通りのデータ処理が必要となり、処理が完了するまで数十秒以上の時間がかかります。この時間をリアルタイムに返却できるように縮め、ユーザーにストレスを与えないスピーディな応募を実現させなければ、使えるシステムにはなりません」と山田は振り返る。
『特定商品読み取りシステム』は、シュフモの販促キャンペーン規模に合わせて開発されており、数点の商品名であれば瞬時にデータ処理を行うことができる。しかし、一企業の全商品や複数の企業がタイアップした大型キャンペーンに対応できるデータ処理能力を備えてはいなかった。山田はISP技術陣と共に、この課題に立ち向かっていった。

“リアルタイム”という壁を乗り越えた歓び。私たちの夢は終わらない。

「レシートの読み取りから応募完了を通知する時間をリアルタイムで利用できるように縮める。ISPの技術陣にとってリアルタイムという壁は、あまりに高いものでした。『特定商品読み取りシステム』のデータ処理プロセスをすべて見直し、処理上で回り道となっているような無駄なポイントを見つけ出し、扱うデータ量を極限までシンプル化することで、1秒1秒、処理時間を縮めていきました。その結果、2014年の秋、『特定商品読み取りシステム』は、ついにリアルタイムでの返却速度を実現しました。途中で大きな方向転換のあったプロジェクトであり、技術的にも数多くの課題と直面した中、終始開発をリードし、最善の答えを出してくれた技術本部の市川さん、阿部さん。彼らをリーダーに奮闘努力してくれた技術陣には、本当に感謝しています」
2014年11月、プロジェクトの立ち上げから約1年半後、ニフティレシート解析システムは開発の第一フェーズを完了した。2015年3月、まずはシュフモでリリースに向けたテストキャンペーンが行われる予定だ。
「このプロジェクトにより、ISPは、またひとつ新しい価値を世に送り出すことができそうです、それはニフティ様とのパートナーシップがあればこそ。家計簿をつける作業を一瞬で完了してくれるアプリがあれば…そんな発想から生まれたレシート解析エンジンですが、そのポテンシャルには驚くばかりです。レシート解析エンジンは、個人ユースの家計簿や企業のキャンペーンシステムのみならず、消費者の購買傾向やトレンド分析のベースとなるビッグデータ構築に活かせる技術として、注目されています。その意味でも、これからが楽しみですね」。人と技術に秘められた可能性を引き出し、あらゆるビジネスとつなぎ、人々の役に立つ製品をプロデュースしていくこと、それが自分の使命だと山田は語る。ISPのオフィスと向き合う、よこはまコスモワールドの大観覧車。それはISPで活躍するプロフェッショナルたちの夢と情熱のように輝きながら、今日も回り続ける。

少数精鋭・一致団結して挑戦するISPらしさを実感。
市川 誉志 Takashi Ichikawa
技術本部 2002年入社

『ニフティ レシート解析システム』開発プロジェクトは、私たち技術陣にとって“レシート解析エンジンの読み取り精度を向上させたい”という、当社の目標を大きく前進させることができた、意義の大きいプロジェクトでした。精度向上の立役者である『特定商品読み取りシステム』を開発できたのは、プロジェクトリーダーとして、常にチャレンジングな姿勢を忘れない山田さんがいたからこそ。“リアルタイム”の壁は高かったけれど、山田さんと徹底的に話し合い、励まし合ったことで、最善の結果を出せたと思っています。また、どんな困難にもめげることなく、積極的に改善策やアイディアを提案してくれた技術本部の部下たちにも助けられました。少数精鋭・一致団結して挑戦するISPらしさを改めて実感。次の夢に向かって走っていきましょう。

大きな試練とチャンスを与えてくれた山田さんに感謝。
阿部信彦 Nobuhiko Abe
技術本部 評価グループ 2014年入社(中途入社)

私たち技術本部評価グループは、開発中の『ニフティ レシート解析システム』が予定通りの動きをするか否かのテスト(評価)を担当しました。アプリ等のシステムであれば、スマホの画面上での動きや反応を目で見ながらチェックできますが、今回はサーバ―型のシステムなので、反応はすべて数字の羅列で返ってきます。したがって、その数字が何を意味しているのか、ということを学びながらテストを行いました。これは評価グループにとっても大きな試練でした。しかし、イメージしづらいシステムの動きを紙に描き、数字を読みながら開発者と議論したことで、評価グループ全員の知識・技術は格段に向上しました。エンジニアとして成長できるチャンスを与えてくれた山田さんには本当に感謝しています。これからもよろしくお願いします!